水葬
どん底なんてどこにもないから、きっぱりと最悪を決めてしまった方が身のためだ。
世界はとてもつもなく広かったことは過去の私がもう気づいてしまった。
自分の匂いが染みついた洋服を着て顔を歪めながらキーボードを叩く。
君が最後に私の匂いにつつまれて眠った時みたいで、私も一人になりたいくせに一人になれない。
つまらない文章をひたすら吐き出す。姉が久しぶりにお酒を飲んだせいで気持ち悪いと苦しんでいた。お酒の飲み方もわからないのかと少し驚いたけど、まあもうどうでもいい。
自分よりも年上の人には、私よりも優れているところがあってほしい。
さっきまで変な気分になって、なんでか身体が水を吸い過ぎて重くなっていて、沈めやしないのに、もう動けやしないのに。
楽しいこと、楽しかったこと、楽しみにしていること、
私は自分の思うように愛されてはいないけれど、愛されてはいるんだろうな。
自分との殺し合いだと思うし、幸せな人はきっとこんな小さなことなんでも許してしまえるくらいなんだろうな。
いつだって生きているし、いつだって死んでしまった私は。
道路の真ん中を歩きながら今日は半月だねって誰かに話しかけてる。
みんな、不幸でありすぎるんだ、もっと幸せになるべきだ。
この幸せもあの不幸も全て私の価値観のせい。
全てを壊す魔物は、あたしの真ん中。もう、沈めてくれ。
おしまい
さよならが寂しかったのは、いつぶりなんだろうな。電車に揺られて、窓の向こうを眺めながらそう思った。
煙草の匂い、猫の鳴き声、新聞紙とボールペン。甘くないカフェオレ、蚊帳、ドライヤー、モノクロの写真が好きだと言った。ソウル、ファンク、私の知らない洋画、暗室、彼は言葉をたくさん知っているだけだ。猫を撫でるように、私の頭にも触れた。
「なにもない、田舎だね」
「だから住んでる」
「きっと、呼び寄せられてる」
「へえ、運命みたいだね」
真昼の下、手を繋いで駅まで歩いた。またきてねって笑うから、そうするよって笑い返した。なんだか懐かしい気持ちで満たされてしまった。休日が終わる。あたしもここからいなくなる。