フォークで刺した地球を

僕らは、ワンルームの蛍光灯の下で。

ずるいひと

君が私の名前を呼ぶようになってからもう随分経った気がするんだ。冬はもうすぐ終わるけど、春にはまだ遠い未来。目を腫らして起きた朝、群青色の声、昨日と違うホームの音。あの時の私はもういないけど、ずっと私のまま生きていくの。ごめんね、何度も同じところを怪我して泣いている。疲弊した顔の色、沈黙を乗せて運ばれた先、私の思いもあの海に散って溶けてしまえば、僕は楽になれる?

彼方

ポケットに手を突っ込んで、左目から涙を流しながら歩いた。もうすぐ冬が終わってもまた泣いちゃうことばかり起きてしまうね。好きな人を嫌いになる瞬間って、どんな時に起きると思いますか。夜に消えていく二人になれたら、新しい名前ができたら。本棚の並び順ももう気にならない、誰とどこにいようが、何をしようが興味もない。欲しいものばかり増えて何も叶うこともない。朝が来ることがわかっていても夜に負けてしまう人を私は愛している。

優しい雪

髪を切ったのに、誰も気づいてくれなかった。だからトイレの鏡をずっと眺めては昨日の自分に謝り続ける。雪が降り始めたんだ、と誰かが教えてくれたから、とても寒いのに傘も差さずに空を見上げた。濡れた地面も白い息もどこか知らないところまで流されておしまいになる。

これから家出をするのだと楽しそうに笑う彼女がいて、私もこのあと北海道にいくんだ、なんて嘘をついてすぐに訂正した。行けるはずもないのに口に出したら本当になる気がして、遠くにいけばきっと違う世界があるような気がして、どこにいても何をしても私は変わらないのに、勝手に変わった気がするだけです。だから私はどこにもいけなくても、今すぐに君になれる。