おしまい
さよならが寂しかったのは、いつぶりなんだろうな。電車に揺られて、窓の向こうを眺めながらそう思った。
煙草の匂い、猫の鳴き声、新聞紙とボールペン。甘くないカフェオレ、蚊帳、ドライヤー、モノクロの写真が好きだと言った。ソウル、ファンク、私の知らない洋画、暗室、彼は言葉をたくさん知っているだけだ。猫を撫でるように、私の頭にも触れた。
「なにもない、田舎だね」
「だから住んでる」
「きっと、呼び寄せられてる」
「へえ、運命みたいだね」
真昼の下、手を繋いで駅まで歩いた。またきてねって笑うから、そうするよって笑い返した。なんだか懐かしい気持ちで満たされてしまった。休日が終わる。あたしもここからいなくなる。