時間が止まる
夜は短いなんて嘘に決まってる。だいだい色の明かりと、断片だけ選んだ春の嘘と、桜の花びらのじゅうたんと、くすんだ雨の匂い。新しい朝なんてもう何年も見ていない気がするよ。視力が落ちちゃったの。
それらしい理由をつけた話を信じちゃって、地下鉄の入り口の階段前。ずっと、待ってるよ。風が染みる。渋谷の匂いにも慣れてしまったよねって、バスを待ちながら笑った。ステンドガラス、暗いトンネルの向こう、静かな街。東京。
君らしい本音がとても居心地が良くて、それを断るのに随分と勇気が必要だった。適当なフリをするんだ、さよならはまだここじゃ似合わない。またね、が呪いのように聞こえて、ほっとした私はゆっくりと目を閉じた。
目黒川
今年もちゃんと、桜を見てきた。東京、大人の街。とても綺麗で、全てがどうでもよくなった。桜が誰にだって平等であるなら、それぞれに不都合が出てくる。
親友たちと並んで歩く。スパークリングワイン、ホットチョコレート、ブランデー。去年のことを思い出して泣きそうになった、真っ赤な顔してにやついていた。まだ消えちゃいないな、消えてくれやしないな。
さよならしたあとは、花見をしている人たちを眺めていた。ビルの2階、LINEの画面と白い花、お酒の匂いと電車の通過音。夜だ。あたたかな夜だった。出来るのならば、楽しくてあいまいな記憶だけに酔っていたい。
ハッピーエンドが不要な世界の、横断歩道の白線を行く。